日本はアジアの一部 2013.9.23
斉藤 惇(さいとう・あつし)氏
[日本取引所グループCEO (最高経営責任者)]
おかげさまで大きなトラブルもなく、現物株を東京に
集めることができました。ただ、まだ道半ばです。金融派生商品(デリバティブ)を
大阪に移すことが残っています。個別銘柄のオプション
を含めると銘柄数は万単位。神経を使いますが、
2014年3月というスケジュールには沿って作業が
進んでいます。日本は明治維新で、小国であるにもかかわらず欧米列強
に肩を並べました。でも、この台頭のプロセスは
終わりました。かつてアジアでは「日本とその他」
だったのが、今や日本はアジアの一部に過ぎません。アジアの国々の一つひとつは自信がないけれど、
それだけに手を組んだり、良かれ悪しかれ欧米が
言うことを割と素直に受け入れたりします。中国だって開放的です。日本企業が2万社も進出している。
逆に、中国企業が同じ数だけ進出した場合、日本社会は
受け入れられますか?日本株の魅力が乏しい理由として、日本企業の利益が
非常に悪いことがまず挙げられます。世界標準に合った
経営がなされていない。この反省がないのです。もう1つ、日本の経営者の頭の中には株主という存在が
入っていません。銀行を株主と思っているが、彼らは
債権者です。経営者は株主に責任を負っているという
感覚は、中国や台湾、韓国よりも乏しいでしょう。あとは情報開示。これだけITが普及すると隠せません。
国家の機密が流出する時代に、隠し通せるはずがない。
恥が残るだけですよ。日本で金利が上がって、何が起きるか。悪性インフレ
です。歴史が証明している。誰が犠牲になるかと言えば
国民です。ブラジルで起き始めていますが、インフレに
なって、物価が上がって、結果として債務が実質的に
消える。その代わりに、国民生活は大災害ですよ。それをやるのですか。
中国はよみがえりますよ。それまでに日本は生産性を
高めておかないと、次のタイミングで日本は中国に
離されます。そうなるとアジアは中国になびくのでは
ないか。改革をやれば、国の価値が上がって、1人当りGDPも
上がって、税収も増える。GDPの200%を越す債務なんて、
シェイム(恥)ですよ。
日本時間で今日(2013年9月26日)、訪米中の安倍首相は
ウォール街で演説しました。概略は以下のとおりです。
「日本は復活します。必ず、復活しますから、どうか
日本の株を買ってください。
私は3語だけで表現します。
Buy my Abenomics」
安倍首相の演説と、斉藤日本取引所グループCEO
(最高経営責任者)の発言を比べますと、
かなりの温度差を感じます。
実行が伴わないイメージ先行で話す安倍首相と、
市場の現場と現物を見てきた斉藤CEOとの、
現実を観る目の違いといえるかもしれません。
「3現主義」に照らし合わせて見ると、自ずと結論が
見えてくると思います。
現在、日本の株式市場はアベノミックスの期待感だけで、
上昇しているように思えてなりません。
もっとも、現在は株式を保有していない私には、株が乱高下
するたびに、一喜一憂することはありません。
とても株式保有者と同じ気持ちにはなれませんね。
アベノリンピックス(「アベノミックス」と「オリンピック」を
合わせた合成後。慶應義塾大学教授・竹中平蔵氏が命名)に
浮かれている状況ではない、と真摯に取り組む姿勢が極めて
大切だ、と思います。
あなたはどう思いますか?

